アルツハイマー病に対する薬として、これまではドネペジル(アリセプト)が代表的でした。ドネペジル発売から30年以上経った今年、新薬レカネマブが承認されました。どこが違うかわかりますか?
繰り返し述べてきたように、アルツハイマー病は①脳内にアミロイドβが増えていく(中年期〜)→②アミロイドβが神経細胞を壊す(老年期〜)→③神経細胞から神経ホルモンが出なくなる(老後〜)という経過をたどって発症します。
ドネペジルは足りなくなった神経ホルモンの代表であるアセチルコリンを増やす働きをします。戦争が続いて足りなくなった食糧(アセチルコリン)を補充するようなものです。上の③の時期に使用する薬です。それはそれで有難いのですが、戦争に勝つことはできません。これに対してレカネマブは敵(アミロイドβ)をやっつける働きがあります。
レカネマブがとても有効であることは確かですが、問題があります。使用時期がとても難しいのです。レカネマブは上の②の時期に使うのが適切です。アミロイドβは中年期から脳内に溜まり始めますが、始めの10年間は無害です。①の時期からレカネマブを使用する必要はないのです。ところが10年を過ぎたころからアミロイドβは凶暴になり、神経細胞を攻撃し始めます。ここで敵(アミロイドβ)を叩くのです。レカネマブはアミロイドβが暴れている時期に真価を発揮します。
③の時期でも始めの頃は有効でしょうが、アミロイドβが暴れる時期も10年間くらいです。その後にレカネマブを投与しても手遅れということになります。その頃には神経細胞がひどく壊され、神経ホルモンも限界以上に減るので、もう回復する力はありません。レカネマブはアルツハイマー病の極めて初期しか適応がないと思います。
そんなことで、要はアミロイドβを増やさず、凶暴にさせないための生活スタイルが大事です。そうすればレカネマブを使う必要もなくなるかもしれません。そのためには? メタボ、ストレス、フレイルの管理です。私のクリニックではこれを一生懸命行なっているつもりです。これらを怠って“仕方ないからレカネマブ”というのはダメです!
レカネマブに興味がある方は、拙著「さらば、認知症」をお読みください。