名古屋市の認知症、動脈硬化、自律神経失調症、その他脳、神経に関する専門的クリニック
当クリニックにおける、物忘れや認知症患者への指導をまとめました。
まず早期発見、早期訓練・治療の重要性を強調します。早期発見とは、認知機能障害の進行を防ごうという病識が保たれている時期を指します。認知症が進むと、病識が低下して、訓練や治療に前向きではなくなります。出来れば病識が十分で、「治そう」、「予防しよう」という意欲のあるうちに訓練、治療は始めたいものです。認知症の手前の状態を「軽度認知障害」と言いますが、この段階で発見できれば、最善です。認知症(アルツハイマー病)の治療薬も開発されていますが、私としては、訓練7割・薬3割くらいの効果と考えるべきと思います。どんな良い治療薬を飲んでいても、訓練(努力)なくしては、"ネコに小判"と思います。
次に物忘れへの対応ですが、上に述べた早期発見、早期訓練・治療を怠りなくやっていれば、いちいち物忘れを気にせぬ方が良いと思います。心配しすぎるとストレスが生じ、これが大脳皮質(特に記憶を司る海馬)を痛めることにつながります。また認知症において記憶障害が進行していくのは、ある程度仕方のないことです。これにストレスが加わり、情緒が不安定になり、「お金を盗まれた」等の被害妄想や、何を言われても嫌がる等の拒絶が目立つようになります。"扱いにくい認知症"にならないように、患者の家族も、あまり物忘れを気にしない方が良いでしょう。
認知症では前頭葉の訓練が大切です。それは前頭葉が脳全体のリーダーの役割を果たしているからです。風呂の栓が開いていて、貯まっていた水が徐々に少なくなっていく状態が認知症だと想像してください。治療薬で栓を完全に閉めることが出来れば問題ないのですが、現在の治療薬は少し栓の隙間を狭くしているだけなのです。手をこまねいていると、風呂の水は空になってしまいます。こんな時、水道から水を足して、少しでも水の減り方を遅らせねばなりません。この水道の役割が前頭葉なのです。前頭葉を鍛えるには、歩く(散歩する)こと、目標を定めて達成することが有効です。
今のところ、認知症の多くは完治を望めませんから、医学のみの対応では不足です。最近は家族構成が核家族化して、独居高齢者や老々介護の夫婦二人暮らしという世帯が急増しています。昔のような大家族なら、誰か呆けても、他の家族が協力し合い面倒をみていましたが、現代では、そういう訳にはいきません。それを補うために介護保険制度が生まれました。万一、自分が介護を受けざるを得なくなった時に備えて、保険をかけておくのです。患者さんの中には、この制度の理解をしていなかったり、介護サービスを受ける事を恥と考える方がいます。介護保険をとり、利用していくのは当然の権利ですから、必要になれば介護保険を早目に取る事をお勧めします。