フラツキを訴える患者さんを診療する時、脳血流が脳に十分に届いていなくて起こる脳貧血を見落としてはいけません。脳梗塞に進展する危険があるからです。脳血流を調べる有用な検査として頚動脈エコーがあります。脳血流は簡単には調べられませんから、脳動脈の根元にあたる頚動脈の血流速を計測するのです。以下に我々のクリニックで行っている頚動脈エコー計測結果を記します。
頚動脈エコーで計測すると、頚動脈の血流速は加齢とともに見事に減っていきます。これは加齢により心臓が弱り、動脈硬化が進むからです。心臓は血管を介して末梢に血を送ります。心臓が収縮した時は多量の血液が血管に押し出されますが、心臓が拡張している間は血管が運動して血液を末梢に送っているのです。したがって心臓が収縮した時の頚動脈血流速(収縮期血流速)は心機能に左右され、心臓が拡張した時の頚動脈血流速(拡張期血流速)は血管の状態に左右されるのです。年齢に比して収縮期血流速が低下しているなら心機能の低下、拡張期血流速が低下しているなら動脈硬化がフラツキの原因と推定するのです。
中でも拡張期血流速の低下が加齢の影響を受け易いという結果が得られています。60歳代と比較すると80歳代では20%前後の拡張期血流速の低下がみられます(収縮期血流速は10%弱しか低下しません)。すなわち老化による頚動脈血流の低下は動脈硬化に起因する度合が強いということになります。動脈硬化によりスムーズに血液が送れなくなり(これを血管抵抗と言います)、血液が交通渋滞する訳です。その結果、脳の先まで血液が十分届かず、脳貧血が起こるという機序が考えられます。
フラツキは通常、立っている時現れます。そこで寝ている時と立っている時で頚動脈血流速を比較しますと、拡張期血流速は若干ですが起立時に低下することが多いようです。つまり立つことで、それだけ脳貧血が起きやすいということの実証になります。80歳代において、立っている時の拡張期血流速の平均値は10~15cm/秒です。これを大きく下回る場合は、脳貧血の可能性ありと考えて良いでしょう。ちょっと難しい説明になりましたが、脳梗塞を未然に防ぐため、頚動脈エコーによる頚動脈血流の計測は大変有意義であると考えます。