私の患者さんの中にも便通異常を訴える方が沢山みえます。便通異常には便秘と下痢、またはその両方を交互に起こす場合があります。高齢者において、便秘と下痢では圧倒的に便秘が多いようですので、まずは便秘から考えましょう。
食べた物は、平均して胃に30分間、小腸に4~5時間、大腸に2日間ほどで通過し、便として排出されます。食物は大体の時間、大腸に滞在し、2日間ちょっとで排便されるのです。便秘の有無は大腸の働きで決まるのが普通と言えます。老化とともに副交感神経が低下していきますが、副交感神経は大腸の運動を活発にして排便を促進させます。従って、老化とともに便秘が増えるのは自然の成り行きかも知れません。高齢者の自律神経失調は、脳梗塞や心臓病など重篤な疾病を起こす危険もありますが、便秘といった日常の不快現象を起こす元にもなるのです。
3日間便秘なら、大腸の通過時間を合わせると、食べ物の消化物は計5日間大腸に滞在することになります。その間に、便はどうなってしまうのでしょう?
赤ちゃんの便はきれいな黄土色ですが、加齢とともに黒味を帯びていきます。これは加齢とともに大腸菌が善玉から悪玉に変わっていくからです。善玉菌なら、便が長い間大腸に滞在しても発酵する(チーズ、ヨーグルトのような物になる)だけです。しかし悪玉菌なら、便は腐敗してしまい、腸の壁を傷つけてしまうこともあります。最悪の場合は、大腸癌の引き金になることもあるでしょう。どうせ便秘気味なのなら、善玉菌を増やすヨーグルトのような乳酸菌や、乳酸菌のエサになるオリゴ糖を取ることをお勧めします。
しかし便秘は起こらぬに越したことはないので、運動と食物繊維の摂取が重要です。歩くことで大腸の動きが活発になり、便が運ばれ易くなります。運動不足の人は、たくさん歩く人の数倍大腸癌が多いという統計もあります。また食物繊維は大腸を刺激し、食物を絡め取って排便の手助けをします。食物繊維の不足が大腸癌やメタボリック症候群の原因になることは、すでに実証された事実です。
一方、慢性の下痢は、大腸が不規則に動くことから生じることが多いようですが、便秘と下痢を繰り返す場合と合わせて、「過敏性腸症候群」と診断される場合があります。これは一般に若者に多く、仕事や通勤中の下痢が我慢出来ないことなどから、生活に支障を与えます。最近は良い薬も出てきましたので困ったら、恥ずかしがらずに医師に相談したら良いでしょう。
快便は幸福につながるといっても過言ではありません。上のような生活習慣に気をつける必要がありますが、過剰に便通を気にする患者も多いのは確かです。あまり気にしすぎるとストレスが溜まり、自律神経失調につながるので、気楽にいきましょう。