名古屋市の認知症、動脈硬化、自律神経失調症、その他脳、神経に関する専門的クリニック
頚動脈硬化のある患者さんをエコーで毎年観察していると、動脈硬化を示すプラークは徐々に大きくなっていくのが常です。しかし血圧、血糖や悪玉コレステロール(LDL)の管理などに努めると、プラークはそれほど増大していきません。場合によってはプラークの縮小もみられます。そして75歳(遅くとも80歳)くらいに達すると、もう医学的管理を何もしなくても動脈硬化は止まることが多いようです。そのような患者さんは、長生きの切符を手に入れたのです。
少し詳しく動脈硬化の変化を観察すると、動脈硬化の出始めは軟らかいモヤモヤの脂分が動脈内腔の表面にこびりつきます。この軟らかいプラークは管理が悪いとどんどん増大して、場合によっては動脈を塞いでしまうこともあります。このようにして中年~老年期の脳梗塞、心筋梗塞が起こり、生命が脅かされるのです。放っておくわけにはいきません。患者と医者が協力して、そのような事態を防ぐのです。
治療が軌道に乗ると、上に述べたようにプラークはそれほど増大せず、むしろ縮小することもあり、“ヤレヤレ逃げ切り”となるのです。その頃になると、プラークは軟らかい脂から固い脂に圧縮され、安定します。
ところが頚動脈の血流を測定すると、意外な事実が発覚することがあります。血流速の低下が認められるのです。頚動脈の血流は脳血流に直結します。動脈硬化の危機を脱して長生きの切符を手にした代わりに、それからは脳血流の低下と戦わねばなりません。
どういうことかと考えてみると、動脈の内腔にこびりついたプラークが固く安定した代わりに、血管自体は硬くなってしまうのです。内腔は拡がっていても、伸び縮みが思うように出来なくなるのです。このような時、私は患者さんに「頚動脈に流れ込む血流を増やすためにもっと歩くこと」を指導します。さもなければ脳循環改善剤で脳梗塞や認知症などの発症を予防せねばなりません。
以上のように、現代では医学の力でかなり寿命を延ばすことが可能ですが、その後に必要なのは患者さんの努力なのです。高齢者の診療をしていると、一事が万事こういうことだと思います。長生きの末には脳梗塞、認知症、骨折、肺炎などが待っています。これらを防ぐため、年を取ったら若い頃よりもっと努力せねばなりません。そこまでして長生きしたくないと言うのなら、医者にかからなければ良いと思います。切符を手にしたからには、努力しましょう。